鍋もののつけダレ、ポン酢ばかりでいいものか
鍋ものの味を決める最大の要素といえば「つけダレ」ですよね。
昨今では食品メーカー製の多種多様なつけダレがスーパーの棚を賑わせています。
が、しかし、市販製品だけではなぜだか飽きてしまうし、かと言って、なんでもポン酢1本で通すというのも寂しい。
ということで、以前、ホンビノス貝を美味しく食べるレシピを考案していただいた、東京・東日本橋、薬研堀まごころ料理 摩多以のオーナー料理人、齊藤摩多以(さいとう・またい)さんに、鍋料理を楽しむためのおいしいつけダレを5種類、考えていただきました。
齊藤さんは和食を柱とした料理のエキスパート。
今はなき赤坂の老舗料亭、口悦での修行を経て、料理武者修行の旅に海外へ。帰国後は、大手ホテルの和食料理長を務めたのちに独立。東日本橋、薬研堀の隣にご自身のお店を構えるにいたる。
今回、レシピを考えていただくに当たって3つのポイントをお願いした。
- スーパーで買える食材を使う
- 肉にも魚にも合う
- 残った場合に流用が効く
つまり、誰もが手軽に作れて鍋の具材を選ばない、さらに、残った場合は別の料理としても楽しむことができるつけダレ、ということ。
味見のために用意していただいた鍋の具材は白菜、豆腐、うどん、白身魚、鶏肉、そして、豚肉。だしは昆布だし。どれも定番。
つけダレの味わいがよくわかる具材だ。
さてさて、齊藤さんがどんなつけダレを作ってくれるのか、楽しみ、楽しみ♪
齊藤さん考案、鍋のつけダレ①「塩ダレ」
【材料・1人前】
- 柚子胡椒 5g
- 花かつおと昆布の合わせだし 200cc
- 塩 小さじ2
- ネギ 適量
最初のつけダレは、柚子胡椒を使った塩ダレだ。
材料にある花かつおと昆布は、ベースとなるだし汁用。
今回齊藤さんは、500ccの浄水に昆布(10cmほど)を5〜6時間浸したものを火にかけ、沸騰直前で弱火にし、花かつお(20g)を投入。
灰汁を取りながら、そのまま30分煮出したのち、クッキングペーパーで漉したものを使っている。200ccだけ、だしをとるのが難しいからだ。
時間がない人は、市販の粉末だしを使ってもいい。
まずはお椀に柚子胡椒を入れ、
塩を加え、温かい状態のだし汁を少しずつ注ぎながら、柚子胡椒を溶かしていく。
だし汁は一気に入れないで、ちょっとずつ注ぎながらかき混ぜて、柚子胡椒を溶かしていこう。
柚子胡椒と塩がまんべんなく溶けたら、刻みネギをたっぷり入れて、完成。
一見すまし汁のような鍋のつけダレなんて見たことがない! この透明感とキラキラ感は新感覚。
齊藤:温かい状態で召し上がってくださいね。
齊藤さんがお椀に鍋の具をよそってくださる。恐縮です!
齊藤:どうぞ、味を見てみてください。
豆腐に白菜、鶏肉が、透き通ったタレの中で輝いている。どんな味がするんだろうか? さっそく、いただいてみることに。
柚子胡椒の豊かな香りとピリッとした胡椒の風味。見た目と違ってしっかりとした塩味。あっさりしていてしょっぱさのエッジが立っている。おいしい! 飲み会続きの時期でも飽きずに食べられそうな味だ。
齊藤:優しそうに見えて塩味が効いています。柚子胡椒もしょっぱいですから。塩味が薄いと、味がぼやけてタレにならなくなるんですよね。柚子胡椒ダレと言うよりも「塩ダレ」です。余ったタレは、豚しゃぶで試すと最高ですよ。
別途用意してくださっていた豚肉をしゃぶしゃぶ。試食してみると、タレの塩味と豚の甘みがお互いのうまさを引き出しあい、実によくマッチする。
豚しゃぶもさることながら、湯豆腐との相性がバツグン。しょうゆベースの湯豆腐のタレよりも、こちらのほうが豆腐の香りや味わいが引き立つ気がする。薄めて翌朝のお吸い物として楽しむのも良さそうだ。
齊藤さん考案、鍋のつけダレ②「オリーブオイルダレ」
【材料・1人前】
- オリーブオイル 30g
- トマト 10g
- アンチョビ(缶詰) 10g
- ケッパー 5g
- バルサミコ酢 小さじ半分
- はちみつ 3g
- 塩 小さじ半分
- 胡椒 適量
続いてはオリーブオイルダレ。オリーブオイル鍋は見たことがあるが、オリーブオイルを使ったタレは初めてだ。
まずはケッパーを刻む。実を一方向にざっくりと切ってから90度方向を変えて、垂直に刻む。これを繰り返すと均等なサイズに小さくなる。
そして、アンチョビを刻む。
刻んだケッパー、アンチョビ、細かく切ったトマト、はちみつ、塩、オリーブオイルを入れて混ぜる。胡椒は適量で。
全体がまんべんなく混ざったら器に入れて、バルサミコ酢をたらして出来上がり。
黄緑がかったオリーブオイルがつやつやしている。
鍋のつけダレっぽさは全くない。新感覚。
具をよそうとこんなふうに。イタリアンと和の融合、とでも言うべきだろうか。オリーブオイルと豆腐と豚肉。どんな味わいなんだろう。
タレをしっかりとからめて口に入れる。おいしい。オリーブオイルのさらっとした油感にトマトの酸味、アンチョビの塩気が意外と豆腐に合っているのが驚き。豚の甘味ともすごくマッチする。
齊藤:貝類にもよく合います。日持ちがしますから、アンチョビが余ったときは、このタレを作り置きしておいてもいいですよ。
なるほど。余ったタレは、ドレッシングの代わりに、温野菜にかけて食べるのもアリですね。
齊藤さん考案、鍋のつけダレ③「梅みそダレ」
【材料・1人前】
- 味噌 25g
- 生姜 5g
- 梅干し 半個
- みりん 小さじ1.5
- 砂糖 小さじ0.5
- ミョウガ 1個
- ネギ 小さじ1
- 大葉 1枚
3点めは梅味噌ダレ。味噌はだし入りではない、お好みのものを使うこと。
まずは梅干しを刻んでペースト状にする。種のまわりの梅肉も包丁の先で丁寧に取って使おう。皮をある程度細かく切ってから、叩くように刻んでいくのがコツだ。
ボウルに味噌、ペースト状にした梅干し、生姜、砂糖を入れ、みりんを加えて、
混ぜる。全体が馴染んできたら、刻んだネギとミョウガも加えて混ぜよう。野菜類を最後に入れるのは水が出るからだ。より滑らかにしたい場合は鍋のスープを少しだけ加えてもOK。
刻んだ大葉を乗せれば完成だ。
白身魚をタレにからめて一口。
うまい! なんと言えばいいんだろう? 隠し味の梅干しが効いている。梅の酸味がインパクトとなって全体を引き締め、味噌のうま味を引き出す感じ。
重く感じるはずの味噌味が程よく軽くなって、飽きずに食べ続けられる。
齊藤:梅の酸味が味噌の辛味を抑えるんですけど、しっかりとしたつけダレの味の濃さは消えないんです。日持ちがするので、多めに作って冷蔵庫に保存しておくと、熟成して美味しくなります。
その場合、ネギとミョウガは入れないで、食べる時にそのつど加えるといいです。余ったつけダレは、翌朝に「味噌生姜汁」で楽しんでください。温ったまりますし、風邪気味の時に効きます。
「味噌生姜汁」って懐かしい。ネギをたっぷり、生姜を茶碗にたっぷり入れて、熱いお湯を注ぐ。田舎のおばあちゃんの定番ホットドリンク。
確かに、作り置き食材としても活用できそうだ。
肉味噌的にご飯に乗せて食べるのもよし。おにぎりの具にしてもOK。蒸し野菜の付け合わせとしても楽しめそうだ。焼き魚に添えたり、焼きナスに付けて食べるのも美味しそう。
齊藤さん考案、鍋のつけダレ④「ごまポン酢ダレ」
【材料・1人前】
- 白ごまペースト 25g
- ポン酢 25cc
- 干し貝柱の戻し汁 25cc(市販の中華だしを溶いたものでも代用可)
- 濃口しょうゆ 小さじ0.5
- ラー油 少々
- 青ネギ 少々
このごまポン酢ダレは、齊藤さんが普段自宅で作って家族と食べている1品とのこと。
まずは白ごまペーストにポン酢を入れて混ぜる。
混ぜ方のポイントは、ポン酢を一気に入れず、ちょっとずつ加えては混ぜる、を繰り返すこと。
齊藤:混ぜる方向は一定に。片栗粉であんかけを作る時も同じなんですが、右回転で始めたらずっと右回転のほうが分離しにくいんですよ。ブレンダーを使うと楽で簡単です。
混ぜていると、ごまペーストが固まってくるので、一瞬ひるむ。が、心配はいらない。
齊藤:ごまペーストにポン酢やだし汁のような液体を入れると一時的に固まりますが、さらに混ぜていくと滑らかになります。少しずつ加えては混ぜを繰り返さないと、ごまと液体が分離してしまうので注意が必要です。
混ぜるにしたがって、トロトロになるごまペースト。干し貝柱の戻し汁を入れてさらに混ぜる。少しずつ加えては混ぜるを繰り返すこと。
戻し汁は、プラスチック容器に入れた干し貝柱50gを水200ccに浸して1日冷蔵庫に置いたものから25ccを使用。
残った貝柱は取っておいて、シメの雑炊に入れるのがおすすめの食べ方。この戻し汁が準備できない場合は、市販の中華だしを溶いたものを使ってもいい。
ポン酢だけでは味が薄いので、濃口しょうゆを加えて混ぜる。
クリーム状に仕上がったら、器に入れてラー油をたらし、刻んだ青ネギを散らして出来上がり。
鍋の具をよそって、いただきます。
これはおいしい!
しっかりとしてコクがあるごまの味わいに、ほのかな干し貝柱のだしのうま味がジーンと舌にしみ渡る。ピリッとしたラー油がちょうどいい刺激に。市販のごまダレとは違って必要以上に甘ったるくないのがうれしい。豆腐に合いますね、これは。
齊藤:干し貝柱のだしを入れてラー油をたらすことで、ちょっとだけ中華っぽい味わいに仕立てました。ラー油を抜くと子供も喜ぶんです。豚しゃぶにつけて食べても美味しいですよ。
齊藤さんおすすめ、鍋のだし汁にくぐらせた豚肉をトロッとしたつけダレをからませて食べる。これは鉄板においしい。余ったら、豚しゃぶでキマりですね。
齊藤さん考案、鍋のつけダレ⑤「酒粕ダレ」
【材料・1人前】
- 酒粕(板状ではないもの) 50g
- 干ししいたけの戻し汁 25cc(市販の中華だしを溶いたものでも代用可)
- 塩 小さじ1.5
- 薄口しょうゆ 小さじ0.5
- 濃口しょうゆ 小さじ1
- みりん 小さじ1
- 刻み柚子 適量
最後は酒粕ダレ。酒粕を使ったつけダレも、あまり聞いたことがない。
干ししいたけの戻し汁は、ごまポン酢ダレのレシピで使っていた干し貝柱の戻し汁と同様に、干ししいたけ50gを水200ccに浸し、冷蔵庫で1日戻したものを使う。
だしを引いた後のしいたけも同様に、取っておいてシメの雑炊で使おう。用意できない場合は、市販の中華だしを溶いたものでも代用可能だ。
まずは柚子を準備。皮を剥き、
皮の裏側の白い部分を切り取って、
刻む。
柚子の準備が終わったら、酒粕をボウルに入れて伸ばす。
今回は板状の酒粕ではなく、水分を多めに含んだもの使用しているため、ここで水は加えない。そのまま使わずに、湯せんして温め、酒粕が柔らかくなったら混ぜるように伸ばしていく。酒粕は蒸してもOKだ。
伸ばした酒粕に干ししいたけの戻し汁を加えて、さらに混ぜるように伸ばす。
酒粕のダマが目立たなくなってきたら、薄口しょうゆ、濃口しょうゆ、みりん、塩を入れて混ぜる。
齊藤:酒粕が温かいうちに調理するのがポイントです。温かいと塩が溶けやすいため、味を決めるのも簡単ですから。このタレは酒粕の種類や状態で味が決まるので、まずはお好みのものを使って試してみてください。
トロトロのペースト状になったら、器によそって、刻んだ柚子を散らして完成!
濃厚なクリームを彷彿させる酒粕に乗った柚子の黄色が鮮やか。日本酒の香りがほのかに漂う。
いったいどんな味がするんだろう?
鶏肉にからめて食す。うーん、一口含むとトロッとしてまろやかな酒粕の舌触り。日本酒の香りと柚子の香りがベストマッチ。酒呑みにはたまらない味だ。
あえて言うなら、珍味系? 大人の喜び。
作っている様子を見ていて、「ぜひともうどんにからめて食べてみたい」と思っていたのだが、酒粕カルボナーラという感じで実に合う。
齊藤:マニアにウケる味でしょうか。柚子は惜しみなく使ってください。そのほうがおいしいです。
余ったタレは、ディップとしてそのまま酒のアテとしても楽しめる。
多めに作ってカルボナーラ風に「酒粕うどん」で食べるのもいい。残った鍋のだし汁で薄めて、酒粕スープにするのもアリですね、齊藤さん!
齊藤さんの好意で、つけダレのだし汁に使った干ししいたけと干し貝柱、そして、溶き卵を入れた雑炊も満喫。最高のシメ。大満足。
ごちそう様でした!
読者のみなさん、いかがでしたでしょうか? まだまだ寒い日々が続きます。
いつものつけダレにちょっと飽きがきている方も、そうでない方も、鍋ものをより美味しくいただくためのつけダレ5選、ぜひ作ってみてくださいね!
全国の銘酒と日本酒のマリアージュを楽しむ「純米燗酒の会」
齊藤さんのお店、薬研堀まごころ料理 摩多以では、ほぼ1月に1回、土曜日に「純米燗酒の会」を開催している。
齊藤:料理と日本酒のペアリングを楽しんでもらう会です。純米酒、それも燗酒の美味しさを世に広めたいと思って始めました。酒蔵や酒屋さんに御燗番に入ってもらい、日本酒それぞれの銘柄に合った料理をコースで楽しんでいただきます。
上の写真はそのお品書きだ。
この内容のコース料理に、プロの舌で厳選された全国の銘酒が味わえるイベントはなかなかない。詳細は随時、薬研堀まごころ料理 摩多以のFacebookページで告知されるので、興味のある方はぜひフォローを。
燗酒と料理のマリアージュを楽しんでみてください。
撮影:熊谷直子(KUMAGAI NAOKO photograpy)
お店情報
薬研堀まごころ料理 摩多以
住所:東京都中央区東日本橋2-6-7 本間ビル1F
電話番号:03-5829-6356
営業時間:月曜日〜金曜日18:00〜翌00:00(23:00 LO)、土曜日17:00〜22:00(21:00 LO)
定休日:日曜日・祝日
書いた人:渡邊浩行
編集者、ライター。アキバ系ストリートマガジン編集長を経て独立。日本中のヤバい人やモノ、面白い現象を取材するため東へ西へ。メシ通で知ったトリの胸肉スープを毎日飲んでるおかげで、私は今日も元気です。でも、やっぱりママンの唐揚げが世界一だと思ってる。
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February 21, 2020 at 07:00AM
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