
朝は職人の心得30カ条の唱和から始まる。
「明るい人から現場に行かせてもらえます」「道具の整備がいつもされている人から現場に行かせてもらえます」
岐阜県高山市にある創業100年の家具メーカー「飛驒産業」の職人養成学校。スマホ禁止、休みは週に半日だけ。共同生活をしながら、職人としての鍛錬を2年間続ける。修行僧のような生活を送る中で、見ず知らずの若者たちが名工を目指して日々成長していく。
飛驒産業は1920(大正9)年に創業し、西洋家具の製造を始めた。これまでは廃棄していた節のある材を家具に活用するなど、近年、業界の常識にとらわれない発想で不振だった業績を好転させた。
業績悪化で新人採用が滞り、技術の継承が途絶えかねないとの危機感から、同社は2014年、自社の若手職人を養成する機関「飛驒職人学舎」をつくった。若者が寝食を共にしながら切磋琢磨(せっさたくま)することで人間性を磨くことを目指す。
学生は月8万円の奨学金をもらい、木工の腕を磨く。スマホは禁止、外部との連絡手段は手紙だけ。休みは日曜の午後と盆、年末年始のみで、途中で辞める者もいる。
「当初はこんな厳しい所に応募があるのかと思っていた」。岡田贊三(さんぞう)社長の予想に反し、今春までに23人が卒業。若手技術者の全国大会「技能五輪」の家具部門で県勢初の金賞受賞者を出すまでになった。
学生は、会社が寮として借りている築100年を超える古民家で共同生活を送る。1月中旬のある日。午前5時半に学生8人が起きてきた。「イチ、ニ、サン、シ」。広間で日課の体操を始める。部屋の中は寒く、吐く息は白い。
2人の料理当番が朝食をつくり、ほかの学生は新聞を読んだり、洗濯をしたり。ご飯にトマトの卵炒め、カボチャのサラダを黙々とかきこみ、7時には会社に出かけていく。
20年度は2年生2人、1年生6人。1人を除き、7人が東北から九州までの県外出身。工業高校出身者がいれば、大学で生物学を学んだ者など様々だが、木工に関しては、大半が「素人同然」だ。
1年目は、のみ、かんな、ノコギリなどの使い方を学びながら椅子や棚などをつくる。手で加工する技術を覚え、2年目は機械による加工を学ぶ。夕方には全員が寮で食事をとり、午後10時ごろまで会社で道具の刃物を研ぐなど自己研鑽(けんさん)に努める。一息つく暇もないが、東京都出身の稲原匠(しょう)さん(20)=現在2年生=は「毎日が楽しい。時間が足りないくらい」と話す。
3月中旬、学舎の卒業式があり、2年生2人が共同生活に別れを告げた。2人は卒業式に出席する上司らに配るオリジナルの印鑑ケースを制作。1年目の課題制作に追われる後輩の相談にも乗り、門出を迎えた。
鹿児島県出身で、大学を中退して学舎に入学した畠田拓弥さん(23)は「多くの失敗をしたし、苦しいこともあったけど、学舎に入ったのは間違っていなかった」と話す。今月、卒業した2人は特注品を製造する部署に配属され、職人としての一歩を踏み出した。(山下周平)
飛驒職人学舎 職人心得30カ条(一部抜粋)
3 明るい人から現場に行かせてもらえます
明るい人は周りを活気づけ、良い雰囲気をつくることができます
10 おせっかいな人から現場に行かせてもらえます
意見が一致しなくても相手を想って行動することが大切です
22 自慢のできる人から現場に行かせてもらえます
日々努力し、自信を持つことでお客様に自分の作品をアピールできます
27 食べるのが早い人から現場に行かせてもらえます
時間を有効に使え、早く作業に取り組めます
飛驒職人学舎の1日
午前5時半 起床
6時 ジョギング(冬場は雪かき)
6時半 朝食
7時 出社し、朝礼に参加。工場で研修など
11時40分 昼休み
午後0時半 訓練や課題制作
5時10分 1日を振り返り、リポート執筆
7時 寮で夕食
7時半 会社に戻り、自己研鑽(けんさん)
11時 門限
からの記事と詳細 ( スマホ無しで2年間の共同生活 過酷な職人への道 - 朝日新聞デジタル )
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