
大工職人の亭主におかみさんが棚をこしらえてほしいと頼んだ。棚は無事完成したが、おかみさんが物を置くと落ちてしまう▼「あんた、この棚、すぐにおっこっちゃうよ」。おかみさんが文句を言うと、この亭主は「そんなことはねえはずだが。…ひょっとして、おまえ、棚の上になんか載せやしなかったか」。古い小咄(こばなし)にこんなのがある。物を置いてはならぬ棚しか作れぬ大工の腕が情けない▼「ひょっとして、階段を上がったり、下りたりしませんでしたか」。その危険な階段に言い訳は一切、通用しない。小咄ではなく、現実の話にさむけがする。東京都八王子市のアパートで三階に住む女性が階段を上がっていた際、踊り場と二階通路をつなぐ外階段が崩れ、転落して亡くなった事故である▼昭和の「ガタピシ荘」ならいざ知らず、築八年と比較的新しいアパートでの事故。階段の接続部分の防水加工が不十分で、腐食し、崩落につながったとみられる▼このアパートを施工した建築会社が手掛けた別の木造アパート五十七棟でも階段などの腐食が確認されているそうだ。警視庁が業務上過失致死容疑で調べているが、どういう了見でこんな危険なアパートを建て続けたのか▼建築業はそこに住む人の命を預かっているも同じであろう。それを忘れたか、安全であたりまえの階段さえ、作れなかった会社の腕と心が情けない。
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