神輿を飾る金具を加工して作るジュエリーブランドが4月に誕生し、注目を集めている。江戸川区で3代にわたってめっき業を営む「斎藤鍍金工場」に、台東区浅草で百六十年の歴史を刻む神輿製造「宮本卯之助商店」が協力。異色のジュエリーは、伝統を守り抜く職人のこだわりから生まれた。(坂田奈央)
◆「これ、ジュエリーにしたらかわいいのに」
約2年前。斎藤鍍金社長の齋藤功さん(56)は、工場を訪れた知人のデザイナーから「これ、ジュエリーにしたらかわいいのに」と声をかけられた。デザイナーの視線の先にあったのが、金めっきを施す前の神輿の装飾金具だった。
齋藤さんは「金具で何かできるという想像すらしたことがなかった」と振り返る。その後、デザイナーらから正式にジュエリー製作について相談を受け、「やってみよう」と応じた。
◆「チープなものを作る気はない」
ただ1点、こだわりがあった。「金具は宮本さんに提供してもらわないと意味がない」。浅草の三社祭で本社神輿も手がける老舗、宮本卯之助商店は日頃から仕事の付き合いがあった。
昨年5月、同商店社長の宮本芳彦さん(46)を訪ねると「少し考えさせてください」との答えが返ってきた。宮本さんにもこだわりがあった。「神輿は神様のもので、チープなものを作る気はない」「普遍性のあるデザインがいい」―。齋藤さんに異論はなかった。
◆時間をかけたブランドストーリー
約2カ月間、コロナ禍のためリモートで話し合いを重ねた。時間をかけたのがブランドのストーリー。「指輪や腕輪などの装飾品がなかった和装の時代に、もしジュエリーがあったなら―」に決まった。
ブランド名は、両社の社長や職人のきっぷの良さから「KIPPU(キップ)」と名付けた。ジュエリーは、職人が金属を加工する工具「たがね」で、地金に牡丹や唐草などの伝統的な文様を1点ずつ施し、金めっきで仕上げる。価格はリングで8千円前後。3月末に公式サイトで発売した第1弾の16品は、リングや手首に着けるカフを中心にたちまち完売した。
◆「KIPPUをつけてお祭り気分を味わいたい」
5月の三社祭は緊急事態宣言下で、昨年に続いて神輿を出せなかった。「今こそ(キップを)着けて、お祭りの気分を味わいたい」。齋藤さんは仲間の言葉が励みになった。
経年変化したジュエリーは、斎藤鍍金工場が再度のめっきを受け付ける。齋藤さんは願う。「昔の人は、神輿から落ちた金具を拾ってお守りにしていた。キップも長く使い続けてほしい。お守りのように」
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からの記事と詳細 ( 神輿の装飾金具でアクセサリー 老舗の神輿職人と鍍金職人のタッグで新ブランド 「お守り代わりに長く使って」<マイストーリー> - 東京新聞 )
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