イギリスのスコットランドで2007年に創業したブリュードッグ（BrewDog）が大成功を果たして以来、世界的にクラフトビールのブームが起き、ユーモアとDIY精神に満ちたクラフトビールの小ブルワリーが多くの街にできている。中国も例外ではなく、若手の経営するブルワリーが、多くの都市で個性のあるクラフトビアを醸造している。その中で「深セン市愛醸生物技術」というブルワリーは、深セン流のOEMビジネスをビールで展開している。（ニコ技深センコミュニティ 高須正和）
● 中国のクラフトビール ムーブメントは急速に拡大
アリババの前最高戦略責任者、ミン・ゾンが書いた書籍「アリババ」に、当のアリババ創業者であるジャック・マーはこんな序文を載せている。
「1995年、私は旅先のアメリカで初めてインターネットと出会った。『中国のビール』と検索してみると、まともな情報はゼロ。それを見て、帰国したら起業しようと決めた。中国にインターネットを、そして世界に中国を届けるために。当時、中国にはネット企業が一つもなかった。それが今、インターネットはどこでも使える。信じられないような進歩だ」
この書籍は中国のインターネットとアリババについての本だが、ジャック・マーが検索した中国のビールについても同じことが言える。特にクラフトビールは95年には存在すら怪しかったが、現在は独自の味とファンを持ったクラフトビールがどの街にも見られる。
中国には青島ビールや燕京ビールなど有名な大量生産ビールブランドがある。酒税の安い中国では、大量生産している有名ブランドと手作りのクラフトビールの価格差は大きい。 コンビニで大手ブランドのビールを買うとボトル5～7元（1元は約15円）程度なのに対し、バーで飲むクラフトビールは1パイントで30～40元ほどと、10倍近い価格差がある。にもかかわらず、手作りの味を好む消費者は増え続けている。
2016年の時点で中国のビール市場におけるクラフトビールのシェアは0.3％程度、あるのかないのかわからない市場だった。ところが18年には5％近くまで上昇していて、多くの都市にはクラフトビールがあると、中国クラフトビールフェスの運営者は語る。
● パンクとDIY精神に主導される 世界のクラフトビールブーム
世界のクラフトビールブームの火付け役となったのは07年にスコットランドで創業したブリュードッグだ。「大量生産されるビールに対して、クラフトビールはパンクだ」をキーワードに、どういう材料でどうやって醸造し、ボトルなどのデザイン含めて自分たちで公開しながら制作し、作るプロセスもYouTubeで配信するパンクでインディーなスタイルが若者を中心に支持されている。
そのせいか、世界各地で登場するブルワリーの多くは皮肉が効いたスタイルのビール名やブランドを持っている。深センには宇宙をテーマにしたETブルワリーが「火星旅行IPA」というビールを、上海には拳闘猫（Boxing Cat）というブルワリーが「サッカーパンチ」「ダブルノックアウト」などのビールを出している。スタートアップの街、深センでは「Exit Plan IPA」というビールを見かけたことがある。ビールの種類の一つIPAと、株式公開を意味するIPO、Exitを掛けたわけだ。
各都市で地元や近隣のクラフトビールによるビアフェスが開かれ、僕も深センのビアフェスには毎年参加している。変わったブランドやユーモアを楽しむのもフェスの一部だ。
クラフトビアフェスは欧米人やスノッブな中国の若者が多い。出される食事もハンバーガーなどの洋食だ。ところが、その中で中国のおじさんたちがテーブルを出しているブースがあり、周りにはヒマワリの種が転がっている。あろうことかブースには「クラフトビールの卸売り、カスタム製造、OEM承ります」とある。
OEM（Original Equipment Manufacturing）とは、相手先のブランド名で製造すること。手作りを旨とするクラフトビールの世界で「OEM」というのは強烈な皮肉そのものだが、本人たちは素でやっている。それが「深セン市愛醸生物技術（以下、愛醸生物技術）だった。
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