伝統の技を感じさせる白壁の町家が気に入った。先輩職人の指導は、厳しさの中にも思いやりを感じた。
2019年夏。蒔絵(まきえ)を学ぶ窪田伊麦(いむぎ)さん(20)は、2週間の職業体験で、福岡県八女市本町の緒方仏壇本店に滞在した。近くのちょうちん工房では絵付けを見学。他にも竹細工など多様な伝統工芸が受け継がれる八女に魅了された。「やってみたいことがたくさんある」。この地で働こうと決めた。
温泉で有名な静岡県伊東市の出身。幼い頃から絵が好きで、デザイン科のある高校に入った。進学先を調べる中で京都伝統工芸大学校(京都)を知る。木工、彫金、漆塗り…。興味のある分野だった。「伝統工芸を仕事にできたら、すてきだな」。進路に決めた。
細かい作業が得意な窪田さんは蒔絵を専攻した。漆で描いた絵が乾かないうちに、金の粉をまいて模様をつける技法だ。授業は道具づくりから始まった。漆をのばす「へら」に、表面を磨く「砥石(といし)」。慣れないのこぎりやかんなを手に奮闘した。ようやく蒔絵を学べるようになっても、肌が漆でかぶれることもあった。
大学校の先輩でもある緒方仏壇本店の緒方伸さん(23)の誘いで、職業体験先に八女を選んだ。八女福島仏壇は国の伝統的工芸品だが、生産高や職人らの数はピークの3分の1に減った。女性の職人も少ない。
それでも「今風の好みや部屋に合うものを作れば仏壇を置く人は増えるはず。不安より可能性を感じました」。憧れの世界に飛び込もうと決心。大学校を卒業した昨春、緒方仏壇本店で働き始めた。
工房では、緒方さんや伝統工芸士の高山茂富さん(63)らの教えの下、仏壇や人形の彩色を手掛ける。
客が持ち込んだ品の修復が、最も緊張する仕事だという。「思い出の詰まった預かり物なので、失敗は許されません。一筆で台無しにしてしまうかも、というプレッシャーがすごい」。往年の制作者の意図や作品の色合いを想像しながら、手を加えていく。
「早く一人前になりたい。あと何年かかるんだろう」。言葉とは裏腹に、表情は明るい。思い通りにならなくても「すぐにできるようにならないところが面白い」。伝統工芸の奥深さのとりこになっている。先輩たちも「失敗から改善点を見つけることや、うまくなりたいという気持ちが大切」と応援してくれる。
休日は、趣のある八女の町並みを歩く。レトロなカフェや和菓子店に立ち寄り、気分転換している。
周辺の工芸品を一堂に集める八女伝統工芸館もお気に入りの場所。「例えばガラス製品もいいな、と思います。気軽に使える蒔絵製品のヒントにできたら」。夢は広がる。 (丹村智子)
からの記事と詳細 ( 伝統工芸の町で腕磨く蒔絵職人 静岡県→八女市移住の窪田さん - 西日本新聞 )
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