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Tuesday, March 2, 2021

「こんな曲が作れたら音楽は辞めるかもしれない」職人・大橋トリオが選ぶ愛の5曲 - 朝日新聞デジタル

sanubaripanas.blogspot.com

こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、3月3日に通算15枚目となるニューアルバム『NEW WORLD』をリリースした大橋トリオがセレクトした5曲を紹介する。選曲理由を語るインタビューと併せてお楽しみいただきたい。

〈セレクト曲〉
01. PJ Morton & Tobe Nwigwe「Ashamed」
02. Bruno Major「Regent’s Park」
03. Barbra Streisand「I Loved You」
04. Dawes「All Your Favorite Bands」
05. 大橋トリオ「ミルクとシュガー duet with 上白石萌音」

■PJ Morton & Tobe Nwigwe「Ashamed」

僕は普段あまり「これがラブソングであるかどうか」を意識して音楽を聴いたりしないんですが、最近聴いた“ラブソング的”なものの中で一番響いた曲としてこれを選びました。確かラジオを聴いていたら流れてきて、とっさにShazam(楽曲認識アプリ)を起動して調べたんです。 現代の曲にしてはあまり奇をてらわない、純粋にメロディーと言葉だけで聴かせる曲だなと思って、それがすごく新鮮だった。エバーグリーンなメロディーだと思うし、歌のうまさも含めて素晴らしいなと。

これを聴いたとき、「こういうシンプルで美しい曲を作りたいな」とすごく思いました。もちろんこの「Ashamed」は歌の技術とかも含めて総合的な素晴らしさを持つ楽曲ですけど、メロディーだけでも十分グッとくるものがある。ソングライターとして、こういうものを意識的に作らないといけないなって思わされますね。2020年に発表された曲ではありますが、仮に10年前や20年前に聴いていたとしても引っかかったであろう普遍性を持つ曲だと思います。

■Bruno Major「Regent’s Park」

最近知った曲で、音楽仲間から教えてもらったんだったと思います。歌い方やサウンドがすごくゆるい感じで、ある意味では自分が目指しているものの一部分であるとも言える気がしているんです。シンプルで音数が少なくて、ジャジーだけどポップで、シャレも効いていて。僕が大橋トリオとして長らく目指していた音楽を、このブルーノ・メジャーという人は当たり前のようにあっさりやってしまっている(笑)。とはいえ、J-POPの範囲内でこれを目指すのはなかなか難しいところでもあるんですけど。

この曲がある種の僕の理想ではあるんですが、「これをやっちゃったら、もうそこで音楽人生が終わっちゃうんじゃないか」みたいな気持ちもあって。たとえばジャック・ジョンソンとかノラ・ジョーンズみたいに、1stアルバムであまりにも確固たる世界観を高い完成度で提示しちゃった人って、もしかしたらあとで苦労するんじゃないかなと思うんです。僕はたまたま締め切りというものがあるおかげで突き詰めすぎずに済んでいるというか(笑)、いいバランスで活動できているのかなと思ってますけど。もちろん、ちゃんとこだわるべきところは徹底的にこだわって作っているというのは前提ですけどね。

■Barbra Streisand「I Loved You」

いろんなところで何度も紹介している曲ではあるんですけど、自分の中では「ラブソングといえばこれ」っていう大定番なんですよ。この世で一番美しい曲なんじゃないかなと思っています。「I Loved You」というタイトル通り、いわゆる未練の歌ですね。とにかくメロディーが美しくて、言葉の運びにすごくマッチしている。ピアノと歌だけのシンプルなサウンドですけど、ボーカルの美しさとピアノのボイシング(和音の重ね方)がとにかく秀逸で、どういう和音なのかよくわからない音使いが放り込まれるコード進行もすごいです。崇高さがあるというか、神がかっているくらいの域に達していると思いますね。ジャズとも言えない、かといってクラシックでもトラッドでもない、なんとも言えないあんばいだなと。

僕は自分のアルバムでほぼ毎回と言っていいほどピアノ1本と歌だけの曲を作ってきていて、ライブの最後でステージに1人だけ残って弾き語りで締めるっていうのが定番になっていて。こんな美しいピアノ弾き語り曲をいつか自分でも作りたいなと思っています。まあ、こんな曲が作れたらもう音楽は辞めますけど(笑)。そう言い切れるくらい、絶対に超えられない曲です。ちなみに、このバーブラ・ストライサンドには「I Loved You」のほかに「Till I Loved You」って曲もあって、紛らわしいので注意してください(笑)。

■Dawes「All Your Favorite Bands」

これもけっこうよそでも紹介してる曲ですが、すごく好きな曲なので選びました。アメリカの、いわゆるウェストコースト・サウンドのバンドで、ハモリとかが気持ちよくてカーンと抜ける曲です。実はこれをライブでカバーしたこともあります。こういう大勢でハモる感じは好きなんです。僕が自分で作る曲はちょっとメロディーが複雑なこともあって、3声以上でハモるとゴチャゴチャしすぎちゃうから2声くらいに抑えていることが多いんですけど、こんなふうにシンプルなメロディーで分厚く重ねるハーモニーが本来すごく好きなんですよね。イーグルスとかザ・バンドとかも好きですし。

ちなみに、僕と一緒にツアーを回ってくれているMichael Kanekoがこんなことを言っていました。実はこの曲の歌詞には言葉通りじゃない裏の意味も含まれているんだと。たとえば「And may all your favorite bands stay together(あなたの大好きなバンドが解散せずに続いてくれますように)」という一節には、「あなたの平穏で幸せな暮らしを願っています」みたいな意味が込められている、と彼は言うわけです。それを聞いて、なんだか粋な表現だなあと思いました。

■大橋トリオ「ミルクとシュガー duet with 上白石萌音」

今回のアルバム1曲目に収録した、上白石萌音さんとデュエットさせてもらった曲です。以前、彼女のアルバム『note』に僕が「Little Birds」という楽曲を提供した流れで、今度は調子に乗ってこちらからオファーしてみました(笑)。

彼女に「Little Birds」を提供したとき、実はもうひとつ候補曲を出していたんですよ。そのときに採用されなかったのが今回のアルバムに入れた「LION」で、最初はなんとなくそれを2人で歌うことになりそうな雰囲気もあって。でも、せっかくやるならもうちょっと華のある曲がいいなと思い直して、2人で歌うことを想定してイチから書き下ろしたのがこの「ミルクとシュガー」です。僕も萌音さんも、あまりビブラートをかけないタイプのボーカリストで、声質もどちらかというと柔らかい。タイプ的に相性はいいだろうなとわかってましたけど、実際に歌ってみたら予想以上によかったですね。

歌詞の中に「取り敢えずジーンズ履いて」という一節があるんですけど、レコーディングの日に彼女がジーンズをはいていたので「もしかして?」と思ったら、「そうです、とりあえずジーンズはいてきました!」と(笑)。そんなかわいい一面もありつつ、歌は本当に上手だし、しっかり声に個性もある。彼女はハモることが好きらしいので「何かハモリのアイデアある?」と聞いてみると、「いや、もう十分完成されているのでこれ以上ハモリは要らないと思います」ってすごく明確な答えが返ってきました。ハモれる自信があったら無駄にハモりたがってもおかしくないところなのに、「ハモらなくていい」という冷静なジャッジができるのは本当にすごいなと思いました。

(企画制作/西本心〈たしざん〉、取材・文/ナカニシキュウ)

★他のアーティストのインタビューはこちら

■大橋トリオセレクト「THE ONE I LOVE」プレイリスト

■大橋トリオ『NEW WORLD』

「こんな曲が作れたら音楽は辞めるかもしれない」職人・大橋トリオが選ぶ愛の5曲

■Profile

大橋トリオ(おおはしトリオ)

1978年生まれのシンガーソングライター・大橋好規によるソロプロジェクト。「トリオ」と銘打っているが3人組だった過去はない。2009年に1stミニアルバム「A BIRD」でメジャーデビューを果たして以来コンスタントにリリースを重ね、2021年に15枚目のオリジナルアルバム「NEW WORLD」を発表した。アーティスト活動のほか、テレビドラマやCM、映画などの劇伴作家としても活躍。ピアノやギター、ベース、ドラムなどさまざまな楽器を操るマルチプレイヤーで、作曲・編曲・歌唱のみならずほとんどの演奏とミキシングまでをも自ら手がける反面、作詞に関してはすべて作詞家を起用するスタイルをとっている。ジャズのテイストを色濃く感じさせながらも多種多様な音楽のエッセンスを取り入れた良質なポップスを生み出す職人的アーティストとして知られ、一般層はもちろん同業者であるミュージシャンからの支持も厚い。

【関連リンク】

大橋トリオ ohashiTrio Official Website
https://www.ohashi-trio.com/

大橋トリオ (@ohashiTrio) ・Twitter
https://twitter.com/ohashiTrio

大橋トリオ Staff Official (@Trio_staff) ・ Twitter
https://twitter.com/Trio_staff

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