Pages

Sunday, June 6, 2021

発注が「10年に1度」のレアものも…下町職人が作るガラス器具、先端研究を支える - 読売新聞

sanubaripanas.blogspot.com

 理科の授業から大学や企業での研究まで、実験の現場ではガラス器具が欠かせない。フラスコや漏斗(ろうと)だけでなく、目的・用途によっては手作りの「一品もの」も多い。経験と勘がモノを言う下町のガラス職人の技が、先端研究を支えている。(大山博之)

 シュゴーッ――。理化学実験用のガラス器具を製造する「桐山製作所」(東京都荒川区)の工房では、ガスバーナーから炎が噴き出る際の音が絶えない。熱したガラスの温度は1000度を超え、職人の額には汗が光る。軟らかくなったガラス管をあめ細工のように手早くねじ曲げ、別の管につなげていくと、あっという間に蒸留装置のパーツが出来上がった。

 「製品のもとになるのは、真っすぐなガラス管。『曲げる』『伸ばす』『つなぐ』『切る』といった作業を組み合わせることで、あらゆる形に仕上げられる」

 同社の2代目社長、桐山時男さん(57)は胸を張る。日本中の企業から注文を受けており、約700ページにも及ぶ製品紹介のカタログには、10年に1度しか発注のないレアものも並ぶ。

 ガラス器具は酸などで腐食しにくく、透明で観察しやすい一方、その出来栄えが実験の成否に直結する。管のつなげる角度や長さで溶液の流れや温度が変わるため、精製した化学物質の品質を左右しかねない。

 「一人前の職人になるには15年ほどの修業が必要」と桐山さん。中学卒業と同時に父、弥太郎さん(93)が創業した同社の門をたたいて以来、ガラスをなだめ、ねじ伏せ、自在に操る技を追求してきた。「最も重要なのはバーナーの火加減。どう加工するかによって火の太さや強さ、温度を頻繁に変えている」と語る。

 同時に化学の知識も深めてきた。工房には大学顔負けの実験室があり、実際に実験を行って器具の完成度を確認する。香料メーカーの元研究者も在籍し、職人向けに助言するほか、研究者向けに器具の扱い方を教える講習会も開く。

 同社は替えが利かない製品を扱うため、修理依頼も数多く寄せられる。

 ある時、得意先から送られてきた漏斗は細かな傷がびっしりと刻まれ、すりガラスのように白く濁っていた。「数十年使い込まないとこうはならない。ここまで愛着を持ってくれているのか」。感激し、修理にも熱が入った。

 最近では高い技術力を生かし、製品の多角化にも挑戦。蒸留器具に特殊な膜を組み合わせ、穀物からつくったバイオエタノールなどの純度を99.7~99.9%まで高められる装置を開発した。一方、若い職人のアイデアでインクを入れる「コニック瓶」の販売も始めた。瓶はインクをためる部分の底がすり鉢状で、少量のインクでもペン先につけやすく工夫されている。

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 発注が「10年に1度」のレアものも…下町職人が作るガラス器具、先端研究を支える - 読売新聞 )
https://ift.tt/3ge4eRL

No comments:

Post a Comment