2021年12月04日12時00分
俳優としての自身のタイプを「職人型」と分析する。「求められた役割を誠実に果たすことが大事。私が良かったと言われるのはもちろんうれしいけれど、作品が良かったと言われるのが一番うれしい」と天海祐希は話す。
天海祐希、主演映画は「皆さんの役に立ちます!」 主題歌の氷川きよし「自分の名前で感動」
ナレーションを担当した公開中のドキュメンタリー映画「私は白鳥」(槇谷茂博監督)でもその姿勢は不変だ。傷ついた野生の白鳥を見守る一人の男性にスポットを当てた作品を、穏やかな語り口で支えている。
映画の舞台は、越冬のためにシベリアから白鳥の群れが飛来する富山県。2018年春、翼にけがをした一羽が仲間と一緒にシベリアに帰れず、取り残されてしまう。過去に夏の猛暑を乗り越え、冬まで生き抜いた白鳥は確認されていないが、白鳥の観察を長年続けていた澤江弘一さん(当時57歳)は、何とか生き永らえさせ、再び来る仲間に再会させようと必死の努力を始める―。
地元放送局のチューリップテレビが19年5月に放送したドキュメンタリー番組に新たな映像を加え、長編映画として再構成した作品。主人公の澤江さんは「自分は白鳥だと思っている」と言うほど、白鳥に入れ込む人物だ。天海は映像を見て、最初はその偏愛ぶりに圧倒されたが、「一つのことを追い求める姿にどんどん引き込まれていった」と言う。
「澤江さんは体調を崩されても、『僕はまだまだ白鳥たちに会いたい』とおっしゃって、体調を整えてまた白鳥に会い行く。白鳥への思いが本当に純粋で、その気持ちが手に取るように分かる気がした。何かに無心に向き合った経験は誰にもあるはず。澤江さんの姿はそんな時に感じた思いを再び呼び起こしてくれます」
誰に頼まれたわけでもなく、ボランティアで白鳥の世話をする澤江さん。映画はその日常を淡々とつづる。「(テーマありきで)何かを訴える映画ではなく、現実を忠実に記録している。その作りもすてきだった。平凡な日常に胸を打つものはたくさん散らばっている」と天海。映画の内容に合わせ、その語りも抑制的だ。
「映像に力があったので、私がナレーションでしゃしゃり出て邪魔する必要はなかった。それでいながら、説明が耳にきちんと入ってくる声の色や高低を探すべきだと思った」。録音の際には、語りのトーンのパターンを自ら幾つか示し、どれが良いかを槇谷監督が判断する形で作業を進めたという。
声だけの仕事は「崖の上のポニョ」や「メアリと魔女の花」といったアニメーション映画の声優でも経験したが、こちらは「絵の力に負けないよう、思い切り抑揚を付けないといけない」。ナレーションとは全く異なったという。
◇「全ての仕事が自分の実に」
天海は祖父母が富山出身。今回のナレーション出演は、そのことを知る製作サイドからオファーされ、快諾した。「子供の頃は毎年夏休みになると、祖母や兄と一緒に富山で過ごしていた。今回は舞台が富山というだけでお話を受けようと思った」と振り返る。
自然が豊かな富山の風景を捉えた映像も心に響いたという。「冬の厳しさや新緑の美しさなど、観光地だけではない、日常にあるたくさんのすてきな場所のことも知っていただけると思います」
宝塚歌劇団月組のトップスターとして活躍、退団して映像の仕事に取り組むようになってから25年以上がたった。若い頃に比べ、最近は肩の力を抜いて仕事に向き合えているという。一方で「年を重ねたことで、20~30代の頃のように『チャレンジして失敗しても構わない』とは思えないようになった」とも話す。
「たくさんの才能のある方たちの中から、私を呼んでくださる。その期待はとても貴いもの。だからこそ成果も出さないといけないし、責任も重い。どのお仕事をするときも、皆さんに『自信を持ってお勧めできます』と思えるレベルまで到達しなければと思っています」
正義感あふれる刑事を好演し代表作の一つとなったドラマ「緊急取調室」のような「バキバキ行ってガンガン進む」(天海)役柄を得意とするが、近年は今年10月に公開されてヒットした映画「老後の資金がありません!」のような普通の主婦役などでも魅力を発揮。主役、脇役を問わず、シリアスな役からユーモラスな役まで幅広く演じる。
俳優として多くの当たり役を持つが、「全ての作品が自分にとっての転機になった」と語る。「一つ一つが自分の実になっている。後になってから『今これができるのは、過去のこの作品のおかげだな』と必ず思う。とてもありがたい経験をさせていただいているし、すてきな二十数年を過ごさせてもらいました」
かつては「いろんな役をやりたい」がモットーだった。「その気持ちは変わらないけれど、今は共演者や作り手から『天海祐希と一緒に仕事をしてみたい』と思われる人間でいたいとの思いが強い」と話す。
来年1月には「緊急取調室」のスペシャル版が放送予定。かつてのホームグラウンドだった舞台への出演もコンスタントに続けており、今後もさまざまなフィールドでの活躍が期待される。「ナレーションもまた声を掛けていただいたらぜひ!」と意欲を話してくれた。(時事通信編集委員 小菅昭彦、カメラ 入江明廣)
天海祐希(あまみ・ゆうき)=1967年8月8日生まれ、東京都出身。宝塚音楽学校を経て、87年に宝塚歌劇団に入団。93年から95年まで月組のトップスターを務めた。退団後、ドラマ「離婚弁護士」「女王の教室」のヒットなどで人気俳優の地位を確立。近年の主な出演作に映画「恋妻家宮本」(2017年)、「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」(同)、「最高の人生の見つけ方」(19年)、ドラマ「トップナイフ―天才脳外科医の条件―」(20年)、舞台「贋作 桜の森の満開の下」(18年)など。
からの記事と詳細 ( 私は「職人型」―天海祐希 ドキュメンタリー映画「私は白鳥」でナレーション担当 - 時事通信 )
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