石川県珠洲市一帯がアートに彩られる「奥能登国際芸術祭2020+(プラス)」が九月四日に開幕する。二〇一七年の初開催からコロナ禍で一年延期を経た二回目の開催となる。感染防止で海外の作家が現地を踏めないが、住民は地域活性化に望みをかけ、前回参加して珠洲に魅せられた県外の人らは地域と交流を続ける。芸術祭へのそれぞれのまなざしを取材した。
海を望み、ヒノキやアテ材の香りがする珠洲市三崎町粟津の建具店。能登地方の夏祭りの夜を鮮やかに照らす奉灯「キリコ」の部品となる木材も横たわる。
二人のベテラン職人が、英語で指示された図面をにらんでいた。「現代アートやね」。直径二メートルの車輪に取り付けられたスタンプで地面に文様を刻む、全長七メートルほどの複雑な木製装置が描かれている。
図面は、奥能登国際芸術祭の作品の一つ。参加する南米・ウルグアイのフェルナンド・フォグリノさんから届けられた。
今回は新型コロナウイルス感染症の影響で、海外作家らが来日できない。芸術祭実行委を通じて地元職人二人に珠洲で代わりに一から組み立てるよう依頼があった。ほかにも十数作品が同様に、海外作家らとのウェブ会議などを経て現地住民らが制作を進める。
八月中旬、作業は佳境だった。「どんな作品なのか、最初は全然分からんかったけど、形になった。キリコ作るより簡単や」。職人の一人、菊谷(きくや)正好さん(72)が冗談めかす。
菊谷さんは五十年来のキリコ職人。高さ日本一とも言われる同市三崎町寺家の十六メートルのキリコも手掛けてきた。くぎを使わず、木材に突起や溝を施して組み合わせるキリコ作りの繊細な技術は、アートにも生きる。キリコを支える四本の柱は、太い角材をかんななどで削り、手作業で徐々に円柱に変えていく。作品のスタンプ部分は同様の方法で正円形に精密に成形された。文様のデザインも図面通り忠実に再現している。
珠洲のキリコ祭りは、コロナの影響で二年連続の中止が相次ぐ。市内に十数人いたキリコ職人も高齢化で今は五人ほどに。「各地の人がこの作品を見て祭りやキリコに思いをはせてもらえるかもしれないと思うと、手は抜けない」
菊谷さんと作業する、ふすま・障子職人の赤坂敏昭さん(60)も「地域の伝統技術と世界の現代アートの融合なんて珍しいでしょ」と言う。「珠洲で芸術祭をするからには恥をかくような作品にはできないから。喜んでもらえると思うよ」
作品名は「私たちの乗りもの(アース・スタンピング・マシーン)」。伝統工芸品「珠洲焼」の文様のようなデザインのスタンプを、来場者自ら操作して同市蛸島町の鉢ケ崎海岸に刻んでいく。(この連載は加藤豊大が担当します)
【メモ】奥能登国際芸術祭=能登地方の里山里海や歴史文化をアートで発信しようと、石川県珠洲市などでつくる実行委が3年に1度開く芸術祭。初回は11の国・地域の39組が駅舎跡、古民家、自然景観などを生かした作品を制作し7万人余りが来場した。今回は、日本を含む16の国・地域から53組が参加して10月24日まで催す。石川県内でまん延防止等重点措置が適用される9月12日まで屋内作品公開休止。「私たちの乗りもの」も公開休止予定。
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