「実は『飴(あめ)細工』って、鳥のモチーフが多かった頃は、『飴の鳥』などと呼ばれていたんです。明治になってから今と同じ名称の『飴細工』と呼ばれるようになってきて……」。そう話すのは、浅草に拠点をおく「浅草飴細工 アメシン」の代表・手塚新理(しんり)さん。
お店に聞くと、今の飴細工に通じるスタイルは、江戸時代中期以降には庶民に広まっていたそうです。現在、飴細工をみる機会は、お祭りの屋台などしかない気が……。そんな中、手塚さんは、飴細工業界の中でも他とは違ったかたちでなじみのない人々へアプローチをしています。
なんで誰もちゃんとやってないんだろう
「飴細工って比較的みんなが知ってて面白いものなのに、なんで誰もちゃんとやってないんだろう。もったいないなって感覚がありました。でも、その『もったいない』感覚って、ある意味チャンスだなと思って」
元々やっていた花火師をやめ、興味のあった「飴細工」を全て独学で学び、「浅草飴細工 アメシン」を立ち上げた。
「教わる環境もなく、やろうと決意してからはつくっている人の動画をみたり、飴の材料の配合から自分でつくって試行錯誤していました。飴細工の教え手はいなかったけど、幸い、文献は残っていたので調べて、とにかくそれを見て手を動かしてました」
それにしても、世代的にも飴細工になじみがあるとは言えない中、なぜ飴細工職人を選んだのだろうか。
「まず、『純粋に面白そう』って思ったんです。つくる工程も分かりやすくて、仕上がったものもダイレクトに結果がでる。その分かりやすさが他の仕事と対極にあって、いいなと思いました」
「それに、飴細工は免許もいらなくて、歴史も古い。この面白い伝統をそのままにしていたらどんどん廃れていくんだろうなって。『もったいない』という感覚も入り混じって、可能性を感じたんです」
食べちゃう飴をなんであんなにきれいにするの?って
「アメシン」の飴細工の特徴は、まるで芸術作品のようにリアルにつくられている「金魚」や、和柄を中心とした絵付けがされている「うちわ飴」など。下地には、主に透明な飴を使っている。飴は90℃まで温め柔らかくして、冷えて固まるまで数分で形をつくり終えなければいけない。片手には棒がささった飴を持つ。その飴を回しながら、もう一方の手で形を整えたり、ハサミで切り込みをいれていく。飴は一切、削り落とすことはなく、無駄にすることもない。ハサミ一本でつくり上げる緊張の瞬間は、まさに職人の技が光る見せ場である。手塚さんが造形にかける時間は、たった5分!
「最初から、『透明な金魚をつくろう!』という目標はなかったです。本当になりゆきで。自然と、飴本来の質感や色味を生かせる方法がないかと思った時に、今の作品に結びつきました。特に『金魚』は他の作品と比べて、つくっている工程が複雑で見てても楽しいんですよ。そもそも食べちゃう飴をなんであんなにきれいにするの?って思いませんか(笑)」
「海外の人にも『日本の文化はすごい』と言われているけれど、根本にあるのは、日本人の『アニミズム(※すべての存在には魂が宿っているとする考え方)』の精神があるからじゃないかな。飴でも、絵でも、木でも、そこら辺の石でもすべてのものに魂が宿っていると感じてしまう精神。昔から日本人が培ってきたそんな感覚があるからこそ、飴細工文化も続いているのだと思います」
「伝統」とは変わり続けて生き残ること
手塚さんがお店を立ち上げて、丸6年になる。現在は、パティシエがつくるような装飾用の飴まで、加工技術を使って幅広い工夫を凝らして飴細工をつくっている。「伝統」というと、昔から変わらないものというイメージが強いが、手塚さんには「伝統」についてどのような思いがあるのか、最後に尋ねてみた。
「伝統って変わらないことではなく、変わり続けてちゃんと生き残ったものが、まさに伝統だと思います。歌舞伎が今でも人気なのは、新しいテーマや面白いことをどんどん採り入れたからこそだと。僕自身も学びの姿勢がないと、技も自分自身も成長できない。実はいま、飴細工以外の新しいことに挑戦しようと思っていて。飴細工で学んだ流れを次のステップにしようと思っています。素材が変わっても、基本的に美しいことと、技を追求するのは変わらないんじゃないかな」
(文・&w編集部 吉野舞)
作品の一部を《フォトギャラリー》でご紹介します。
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March 04, 2020 at 09:12AM
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