どこへ行くにも欠かせないものって何だろう。それは「靴」だ。快適な移動をサポートし、足を守ってくれる。けれども、靴の手入れ方法を何も知らない。履きつぶした革靴を靴職人の元へ持ち込み、靴について考えてみた。15日は「靴の記念日」。
訪れたのは、長崎市油屋町の「山川製靴店」。崇福寺(鍛冶屋町)のすぐ近くにあり、広さは2坪ほど。70年以上の歴史があり、1960年代前半に父から店を継いだ2代目の山川正雄さん(75)が一人で切り盛りしている。
革靴を渡すと、山川さんから「手入れ不足ですね」と厳しく指摘された。持ち込んだ革靴は2018年の夏ごろに購入したもの。手入れを怠ったため革の色が抜け、かかともすり減ってしまった。正直なところ、捨てて新しいものに取り換えようと思っていた。
「まだ十分に履ける」と山川さん。修理する様子を少し見せてもらった。すり減ったかかとはペンチのような器具で靴底から取り外し、やすりで丁寧に磨いて新しいゴム底を接着。茶色のクリームを革靴に塗り込むと、鮮やかな色がよみがえった。こうした手作業は創業時から変わっていないという。同店では紳士靴や婦人靴全般の修理を受け付け、月平均で20件ほどの注文があるそうだ。
山川さんのように、手作業で革靴を修理する靴職人は年々少なくなっている。山川さんによると、手軽に革靴を修理できる機械を使ったチェーン店の普及や、担い手不足などが原因。最盛期は市内だけで200人近くいた靴職人は現在は2、3人程度に減ったという。
後継者不在により、自分の代限りで店を閉める山川さんだが、自分を信頼してくれる常連客の存在や、チェーン店ではできない難しい作業を任されることが励みになっているという。「毎日のように履く靴は、人間にとって一番大切なもの。履く人に愛着を持ってもらうため、この仕事を続けている」と胸を張る。
革靴を店に持ち込んで2日後。修理が完了し受け取りに行くと、ぴかぴかの革靴を持った山川さんが待っていた。分厚い靴底につやつやの革。ほつれた縫い目は元通りになり、新品と遜色ない出来栄えだった。修理費は2千円。買い替えるより随分安く上がった。
うれしくなって早速履いた。山川さんは「似合ってますよ。靴は大事にね」と声を掛けてくれた。ろくに手入れもせず、古くなったら「捨てよう」と考えていたことを反省した一方、以前よりも靴に愛着がわいたことに気付かされた。靴は長く付き合える相棒のような存在だ。ぼろぼろになった靴があれば、靴職人に一度持ち込んでみてはどうだろうか。
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