繊細な工法「受け継いで」
全国で唯一のプラチナ箔(はく)職人が金沢市にいる。福久町の高橋幸一さん(88)だ。職人の道に入り七十年。金箔(きんぱく)とはまた違う輝きを放つプラチナ箔を生み出す繊細な手仕事は、多くのアーティストたちから愛されている。 (鈴木里奈)小さな工房の中は、機械の筒でプラチナを素早く打つ鈍いドドドドという音が響く。地響きを伴い、機械が止まった後もしばらく耳がボーッとする迫力だ。
プラチナは硬く、金箔よりも打ち延ばすのが難しい。プラチナの箔打ちは、プラチナをグラシン紙にはさみ、それらをいくつも重ねてさらに袋革で包む。機械のハンマーで連続してたたき、一万分の七ミリの薄さに延ばしていく。これに対し金箔の厚さは一万分の二〜三ミリ。高橋さんも始めた当初はなかなか思い通りに延ばせず粉々になったといい、「金と同じくらい延びてくれれば楽なんだけどね」と苦笑する。
プラチナを打つ機械の動きは、金箔を打つ場合よりゆっくりだが、それでも一分間に約三百回たたく。高橋さんの右手の親指はつぶれ、爪も割れており「つぶれてからが一人前だよ」とさらり。厳しい職人の世界がうかがえる。
摩擦熱で熱くなるため、打つのを止めて冷ましながら、またハンマーにかけることを繰り返す。光を当てて紫色に透ければ完成だ。どこをどれだけ打てば箔がむらなく薄く延ばせるかは、職人の経験と勘による。
高橋さんは、高校卒業後すぐに、銀箔(ぎんぱく)職人だった父親の跡を継ぐため工房に入った。アルミ、金、銀、真ちゅうなど「ありとあらゆる金属を打ってきた」と胸を張る。
プラチナ箔は、銀に替わる変色しない素材として、西陣織の装飾に好んで使われることから、昭和五十年代ごろから高橋さんの工房でも生産を始めた。最近はアーティストに人気で、ファッションアイテムや、九谷焼、輪島塗の沈金にも取り入れられている。
県箔商工業協同組合によると、高橋さんは唯一のプラチナ箔職人だが、難易度が高いプラチナは元々打ち手が少ない。金箔産業自体が全盛期よりも落ち込み、周りの工場から聞こえる音が静かになって「さみしい気持ちはある」と高橋さん。「誰かに受け継いでほしい」ともこぼす。
年齢を考え「あと一年半、やれればいいかな」と話すが、プラチナ箔を「金箔並の薄さにしたいね」と、まだまだ高みを目指して日々試行錯誤を繰り返している。
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