
テーマは『人を笑顔に!』 職人の「作りたい!」を叶える唯一のコンクール
毎回テーマを決めて行っているが、今年はいまだに不安がぬぐえない世の中を少しでも明るくしたいとの思いから『人を笑顔に』に決定。このテーマに沿い、食品をモチーフとして、規定サイズ内で作りたいものを作るのだが、宮澤氏は「普段の仕事は、お客様からの指示を受け忠実に製作しているため、もちろん自分勝手なデフォルメはNGです。しかし年1回の社内コンクールでは、『自分の作りたいもの・表現したいもの』を自由に発表する場となっており、職人たちのためのコンクールといえるかもしれない」と話す。
職人たちのためのコンクールを開催する理由について「普段の仕事だけでは見ることのできない、各個人のセンスや技量を見ることができます。また、再現するだけだと見えてこない、新たな食品サンプルの見せ方なども気づかせてくれます。例えば歴代の作品には、食器ごと製作し、その食器が割れて食材がこぼれている瞬間を表現したり、生牛肉のハンドバッグや、クッキーで動物などの製作した作品など、現実ではありえないようなものまで様々な発想がありました」と振り返る。
しかし、社内審査では、「ポテチザウルス&トリケラチップス」を抑え、「秘伝のタレ(LEGEND)」が1位に。プロの目線から、どのような点が評価されたのか聞いた。
「なんといってもリアル感(しずる感)ですね。タレの滴り具合が絶妙で、タレが入っている壺についた年期を感じさせる見せ方、そして食べたいと思わせる表現力が見事だったと思います」
「まるで空気のように存在」食品サンプルを作り続け約90年、日本の食文化に欠かせない要素に
「まず、素材はロウからプラスチックへと変わりました。しかし、全て個店対応のため、手作業ということは今も変わりません。1932年創業以来、日本全国に食品サンプルは日常生活の中に、まるで空気のように存在しています。食品サンプルは、日本的な風景を構成する重要な要素『飲食店には無くてはならないもの』なのです」
今ではスーパーなどより身近に、飲食店以外に活用の幅を増やしてきている。また、同社が運営している「元祖食品サンプル屋」では、食品サンプルの技術を生かし、ユニークで楽しい商品の販売も行っているという。
最後に、アートや面白グッズとして求められることも多くなった食品サンプルだが、現在の立ち位置を聞いた。
「食品サンプルの使命である『本物より美味しそうに』は、創業以来変わってはおりません。“アート”とはご覧になった方の感想であり、弊社では、お客様である飲食店様の店頭を飾る販促物の一つと捉えています。一方で、一般消費者様向けの『元祖食品サンプル屋』では、『驚きと感動で人々に笑顔に』をスローガンに商品を開発・販売しています」
昔から変わらず店頭に存在する「食品サンプル」。技術や表現方法が進化しようとも、その意味合いは変わらない。しかし、“一般消費者向け”という新しい需要が生まれ、目的が全く違う「食品サンプル」が登場した。その背景には、職人たちの“エゴ”が詰まったこの社内コンクールが大きな影響を与えていることは間違いないだろう。
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