史上初、3Dを採用したデジタルエキシビジョン。
パリ装飾芸術美術館の大広間での展示の様子を見ることができる「ザ ルーム」。
ロエべ(LOEWE)財団が現代クラフトの祭典「第4回 ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2021」の受賞者をデジタル形式で発表した。同プライズはクリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソンによって2016年に設立され、若手アーティストの支援や近代クラフトの新たな可能性を世に送り出すことを目的としている。テキスタイルや陶器、木材、紙、ガラスなど各作品で取り入れられている素材の多様性は、伝統技術の再考とともに新たな創造性を後押しする役割となる。
今年選出されたアーテイストの多くは、自然界の普遍的なテーマを作品に落とし込み、ファウンドマテリアルやアップサイクル素材の起用が目立った。受賞者およびファイナリストの選出に当たっては、 2020年1月に10名の専門委員がマドリードに集結し、 2日かけてすべての応募作品を審査。見事に大賞を獲得したのは、中国出身のリン・ファングルの 『SHE』(2016年)。 特別賞は、チリ生まれのダビド・コルバランが製作した『Desértico II』(2019年)と、崎山隆之の『聴涛』(2019年)の2点が選ばれた。
もっとも注目すべきは、3Dを用いた初のデジタルエキシビジョンという点だ。パリ装飾芸術美術館の大広間での展示の様子が、自宅で鑑賞することができるのだ。3Dで映し出された作品は、あらゆる角度や細部まで近づいて見ることができる高解像度映像(拡張現実)により、スマートフォンで堪能できる。さらに「ザ ルーム」では、これまでの全ファイナリストの作品もオンラインで鑑賞できるうえ、各アーティストが所属するギャラリーのサイトリンクが張られているため、世界のクラフトファンが直接アーティストにリーチすることも可能だ。
今回のこのイノベイティブな仕組みや今回の受賞者の特徴などについて、ジョナサン・アンダーソンに話を聞いた。
「ロエベのためだけでなく、より多くの人の目に触れてもらうことが大切」
クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン。
──今回はこれまでで一番国際色が豊かで、2,920点にも及ぶ応募がありました。今年の受賞者の特徴は?
コロナ禍によって開催が延期されましたが、今年は本当に多種多様な作品が集結しました。このプライズは年齢やバックグランドを問わず、ユニークでパワフルな作品に焦点を当てています。入賞者2人は日本とチリから。最優秀賞は中国出身のリン・ファングルで、かつて見たことのない新しいテクニックや大胆な作風が特徴でした。テキスタイルがいかに想像豊かで、コンテンポラリーアートの側面でも注目が高まっていることを表していると思います。
──新設されたオンラインプラットフォーム「ザ ルーム」について、今後の展開を教えてください。
このサービスは全て無償で、ギャラリーとアーティストたちをサポートすることを目的としています。大事なのはロエベのためだけでなく、より多くの人の目に触れてもらうこと。入賞者やファイナリストたちを含め、彼らの今後の活躍を見届けながらサポートし、ひとつのコミュニティメディアに成長させることで、伝統工芸の重要性やクラフトマンシップを受け継ぐ大切さを伝えていきたいと考えています。
──日本からは崎山隆之氏が特別賞を受賞しました。日本人アーティスト特有のタッチや視点は何だと思いますか?
日本は素晴らしいクラフトマンシップの歴史を誇り、その伝統工芸を受け継いでいます。だからこそ、レベルが非常に高く素晴らしいですね。入賞した崎山氏は現存している陶芸家の中でもとても優れている人物。彼の作品はとてもパワフルで、一目で彼のタッチだとわかる。数多くの素晴らしい応募作品の中から選出するのはとても難しいですが、日本は常に現存のクラフトを刷新する先駆者的な要素があると感じています。
──この1年でデジタル化がさらに加速しましたが、実際に影響を受けたり感じたことは?
陶芸家やガラス作家、テキスタイルデザイナーたちから刺激を受けましたね。このプライズでもファイナリストの職人たちの作業プロセスに密着したビデオを何本か製作し公開したのですが、それらを見ると心が温かくなり、原点回帰の大切さも改めて感じました。手作業というのはつい見過ごされがちですが、クラフトにおいてなくてはならないことです。また、クリエイターたちの作業を間近で見られることもデジタルおよびSNSのメリットの大きな一つだと思います。
──来日の度に、益子で焼き物を見るなど日本のクラフトに触れる機会を設けていらっしゃいますよね。次回訪れる際に行ってみたい場所はありますか?
京都が本当に好きで、また日本に訪れる日を心待ちにしています。なかでも樂美術館は素晴らしい伝統工芸品が展示されているので、行くたびにインスピレーションを掻き立てられますね。
現代クラフトの未来を担う、3名の受賞作品。
リン・ファングル による『SHE』(2016年)。
ここからは3名の受賞者の作品を掘り下げていこう。大賞に選ばれたのは、中国人のリン・ファングル による『SHE』(2016年)。中国雲南省に住むペー族の女性が千年前から用いている裁縫方法を用いた同作品は、そのとてつもないスケール感と息をのむほどの技術で審査委員を驚かせた。この作品に込めた想いについて、ファングルはこう語る。
「中国雲南省に何度も訪れ、地元の人々と触れ合い、多くの工房にも訪問することで土地の文化背景とその地域に住むペー族が代々受け継いでいるタイダイ技術を深掘りすることができました。伝統的なタイダイのプロセスを異なるファブリックに施すことで、クラフツマンシップの新たな可能性を探り、伝統工芸術とコンテンポラリーアートを融合しています。今回受賞したことで、アートに対する情熱を改めて実感し、創作のモチベーションが高まりました」
ダビド・コルバランの『 Desertico Ⅱ』(2019年)。
特別賞はチリ生まれのダビド・コルバランの『 Desertico Ⅱ』(2019年)。 銅線と樹脂を使ったこの作品は、アタカマ砂漠にあるコルバランの家にインスパイアされた地形学的彫刻シリーズの一部だ。石化した木の様な表面は儚い輝きを持ち、それは私たちの周りにある美しいものの崩れゆくサマを表し、人類の行動がどのように自然を危機にさらすのかを証言している。作品を通じて伝えたいメッセージについて、こうコメントしている。
「代々受け継がれてきたクラフトマンシップや手作業を通して、かつて同じ作業をしていた先祖と触れ合うことができました。職人技は内なるクリエイティビティを刺激し、周りの環境との関係性を構築してくれます。その技術は長い時を経て、永遠に受け継がれていくでしょう。たとえ伝統工芸技術が大型産業に介入され、変化を強いられていも守り抜くべきです」
崎山隆之 の『聴涛』(2019年)。
もう一人の特別賞は日本から、崎山隆之 の『聴涛』(2019年)が選ばれた。素材の熟知と卓越した技術によって生まれた彫刻的な器は、自身が観察した海の引き潮や流れを丸みのある形状に凝縮している。独特の砂釉を使うことで、海底を想起させるだけでなく、海底をひっくり返したような表情を生み出す。作品への想いと日本の若手作家が海外で成功できる秘訣について崎山は、「この作品は表裏一体の対比ではなく、繋がりのなかで物事が成立していく様子を表現しています。それゆえ、作品を多くの方に見て知ってもらうことが大前提。良くも悪くも伝統は価値判断が固定されている部分があり、日本の概念に縛られず、海外でのびのびと自己表現することで新しい作品が次から次へと生まれてきます」と述べた。
現代クラフトを担うアーティストたちの自由な感性は、未知なるクリエイティビティを生み出し、やがて次の世代に受け継がれていく。彼らの活動に今後も注目するとともに、来年の「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」にも期待が高まるばかりだ。2022年度の応募に関しては、近日発表を予定している。
Photos: Courtesy of Loewe Text: Megumi Otake Editors: Mayumi Numao, Sakurako Suzuki
からの記事と詳細 ( デジタル化した今年のロエベ クラフト プライズ。イノベイティブな挑戦や作品の魅力をジョナサン・アンダーソンが語る。 - VOGUE JAPAN )
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